友情に飢えている。
就職してからというもの、知り合いと遊ぶ機会が一気になくなった。数少ない友人たちは大学卒業を機に願いをかなえたドラゴンボールの如く全国に散ってしまったので、予定を合わせることが困難な状況にある。コロナ禍だし。
この寂しさを埋めるためには、近場で新しい友達をつくる必要がある。
しかし私も都会の人ごみと果てない草原、泣きたくなる場所はどっちという問いに2つマルをつけるくらいにはちょっぴりオトナである。今さら一から友達作りなどする気力も時間もない。
なにか、手っ取り早く簡単に友情を育む方法はないものだろうか。
そうだ、困難をともにすればいいのだ。
漫画などで辛い修行を乗り越えた仲間が固い絆で結ばれるのはよくある話である。現実でも野球部は野球部とばかりつるんでいる。
そして、身近な困難と言えば
大事なことなのでキルラキル風のフォントにした。いかがだろうか。
山手線徒歩一周。とにかく、山手線を自分の足で歩いて一周する。
山手線は歩けばおよそフルマラソンと同じ距離であり、十分に困難であると言えるのではないだろうか。体力のない私に達成できるかが不安ではあるが、最近毎日ブロッコリー(しかも国産)を食べてるし何とかなるだろう。
そして、今回と山手線を歩くパートナーは…
そう、ケンタッキーの首領こと、カーネルサンダースである。
近場で遊べる友達が欲しかったんじゃないのかよ、とツッコミを入れられるかもしれないが、聞いてほしい。恥ずかしながら私は最近までケンタッキーを食べたことがなかった。先日なんとなく近所のケンタッキーに行ってみたところ、オリジナルチキンの美味しさにいたく感動した。もっとケンタッキー、もといカーネルのことを知りたいという思いで今回の旅の相棒に抜擢した。遊べるか遊べないかとか打算的な話ではなく、コイツと仲良くなりたいという直感的な気持ちが大切なのだ。
はたして私たちは山手線を通じて友達になれるのだろうか?
茨城から電車に揺られ午前8時、①東京駅から旅はスタートする。
カーネルの微笑みと共に、長い1日が始まった。本日、30駅から成る山手線を時計回りで回っていく。
朝食としてなか卯の牛丼を一杯。和食はカーネルの口に合うのだろうか。
およそ15分歩いて②有楽町駅に到着。旅は始まったばかりだ。
続いて③新橋駅、
ちょっと上から④浜松町駅、
下から見上げて⑤田町駅。快調なペースで進んでいく。
2020年3月に開業した⑥高輪ゲートウェイ駅。
少し歩いて⑦品川駅。
ここまでの道のり、立ち並ぶ高層ビルに群馬出身茨城在住の私は圧倒されっぱなしだった。ちなみにカーネルの出身はケンタッキー州ではなくインディアナ州だそうだ。へ~。
およそ午前11時、スタートからそろそろ3時間経つ。この辺で休憩がてら早めの昼食にすることにした。道中でお店を探そう。
お、ケンタッキーあるじゃん。
バーガーキングもあるね。
どっちにしようかな~
ねえカーネル、今どんな気持ち?
すねちゃった。
バーガーキングで一息入れ、再び私たちは歩き始める。
ベーコンチーズワッパーの余韻に浸りながら、⑧大崎駅に到着。
なんだカーネル、まだすねてるのか?
わかったわかった、夕食はケンタッキーにしよう。
なんとか機嫌を直してくれたみたい。よかった~。
⑩五反田駅。正午ということもあり人が多かった。
⑪目黒駅
あれ?カーネルは?
スゥー
左からフェードイン!お茶目なとこあるじゃん。
ガーデンプレイスでお馴染み⑫恵比寿駅
渋谷に着いたので少し散策。
あ!カーネル、ハチ公だよ!!
あらら、初めての犬にびっくりしちゃったみたい。
ローリングカーネル完成してんじゃん。こいつは縁起がいいね。
新宿にもケンタッキーがあるんだね~。
あ、ウェンディーズだ!初めて見た!
うーん、どっちか寄っていこうかな。
あんまりお腹空いてないし今回はいいや!
後ろ向いちゃった。どんな感情?
うわ、高速ローリングカーネルだ!これは珍しいぞ。
気が付けばおよその中間地点である新大久保を通過していた。流石に膝や足の裏にそこそこの痛みを感じ、精神的な疲れも大きくなっている。
カーネルはまだ大丈夫?
そっか。強いね、カーネルは。
カーネルも頑張っている。私が一人挫けるわけにはいかない。
スライディングカーネルだ。まさかこんな所でお目にかかれるとは。
この辺で私の体と精神は限界をむかえ始める。食事以外の休憩なしでひたすら歩いてきた。コンクリートの上を歩き続けることがこんなにもしんどいなんて思いもしなかった。
もうあきらめて電車乗って茨城帰ろうか…?
カーネルは首を横に振った。もう日も落ちてきたというのに、どうやら私はまだ歩かなくてはならないようだ。ラストスパート、心の中で気合を入れる。
ありがとな、カーネル。もう弱音は言わないよ。
やっとの思いで㉕西日暮里駅に到着。
さーて、ポケットからカーネルを…
ん…?
カ、カーネル…⁉
何てことだ…!
ご覧の通り、カーネルの頭部は無残にも引き裂かれていた。撮影のたびにカーネルをポケットから出し入れていたので、元々ついていた折り目の部分が弱って破けてしまったのだ。
カーネル、さっきは強がってたけどお前も限界だったんだな…
ごめんよ、夕食にケンタッキーに行く約束、守れなかった。
㉕日暮里駅
思わず左手で虚空をつまんでしまう。
そっか、カーネルはもう…いないんだった。
一人夜道をおぼつかない足取りで進む。
ふと立ち止まり、拳を握った。
馬鹿か私は。もっと自分が丁寧にカーネルを扱っていれば、彼はもっと長く生きることができたはずだ。後悔と孤独感で胸がいっぱいになる。一体この気持ちをどこにぶつければいいというのか。この時、割と本気で悲しかったのを覚えている。
あっ…
コンビニ…
ここでセロハンテープを買い、破れた部分を補修すればカーネルは簡単によみがえるだろう。私はコンビニの入り口の方向へ吸い込まれるように歩いた。しかし、直前で思いとどまる。彼は本当にそんなことを望んでいるだろうか?ここでカーネルをテープであっさりと復活させたのならば、その身が滅びるまで歩き続けた彼の覚悟をコケにしてしまう。なんだかそんな気がした。
ならば私にできることはただ一つ。
最後まで歩くことだ!!
㉖鶯谷駅
おーい!カーネル!みてるかー!
㉗上野駅
いえーい!カーネル!いえーい!
㉘御徒町駅
カーネル!アロハ―!
㉙秋葉原駅
うい~!カーネル!うい~!
俺は楽しんでるぞ~!
…正直言って空元気だった。膝はがくがく、もう足の裏も見せられないレベルで皮がむけてるだろう。とにかく歩くたびに痛みに襲われる。相当歩いたし、もう本気で辞め時かもしれない。そう思った矢先…
あれは…
あ…
カ…
…カーネル(甲冑)!!
「まだ終わってない。」そうカーネルが私に語り掛けているような気がした。
ちょっぴり、泣いたかもしれない。
最後のエネルギーをケンタッキーのナゲットで補う。あと2駅。もうひと踏ん張りだ。
そしておかえり、カーネル!
さあ、ラストランだ!
㉚神田駅
そして遂に…
①東京駅
こうして私たちの長い長い一日が幕を閉じたのであった。
この旅のテーマ「困難を乗り越えた先に友情は見つかるのか?」について、もう言うまでもないだろう。少なくとも私はカーネルのことを親友だと思っている。困難が、山手線が私に友情をくれたのだ。
ちなみに今回かかった時間は休憩込みでおよそ14時間だった。
消費カロリーは4541kcalとあるが、カーネルが散った後に上野のゴーゴーカレーでメジャーカレー特大(1400円)を完食したのでカロリー的にはおそらくトントンである。
皆さんも仲良くなりたい相手がいるのならば、一緒に山手線を歩いてみてはいかがだろうか。次の日はマジで歩けなくなるので、ぜひとも連休の初日にでも試してみて欲しい。きっと友達が見つかるはずだ。こうして友情の輪は広がっていく…山手線のようにね。
以上、オフィスカジュアルのドナルドがお送りしました。
ケンタッキー・フライド・チfin.